震災などで避難生活が続くと、地震の直接的な原因とは別で体調を崩したり、死亡したりすることが増加します。
震災関連死の主な原因は過労やストレスによるエコノミークラス症候群の発症などが有名ですが、実は「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」によるものも多いことはあまり知られていません。
そこで、誤嚥性肺炎の危険性や原因、対処法について説明しますので一緒に見ていきましょう。
目次
震災関連死に繋がる「誤嚥性肺炎」とは?
先にも述べましたが、震災関連死の多くは過労やストレスからくるエコノミークラス症候群が有名です。
<参考記事 1>
<参考記事 2>
しかし、実は「誤嚥性肺炎」が原因で死亡するケースも多いことは最近になってようやく報道されるようになってきました。
では、誤嚥性肺炎とは一体どういったものなのでしょか?
誤嚥性肺炎とは?
日本人の死因の第4位は「肺炎」です。
そして肺炎で死亡する人の94%以上は75歳以上で、90歳以上では死因の第2位になっています。
「誤嚥(ごえん)」とは、食べ物や飲み物を飲み込む「嚥下(えんげ)」と言う動作を正しく行えずに、食べ物や飲み物、胃液が誤って気管や気管支に入ってしまうことを言います。
誤嚥性肺炎は、それらの食べ物や飲み物、胃液などが肺に流れ込んで起こる肺炎です。
高齢者の肺炎の70%以上が誤嚥性によるものと言われており、再発を繰り返すと言う特徴もあります。そして、再発を繰り返すことにより耐性菌が生まれ、薬による治療に抗体ができてしまうことがあります。
そのために、優れた抗菌薬治療が開発されている現在でも治療が難しいことが多く、特に抵抗力の弱った高齢者の死亡原因となっています。
誤嚥性肺炎の原因と症状
高齢になると、食べ物や飲み物を飲み込む「嚥下」と言う機能が低下し、さらに誤って飲み込んだものなどを吐き出す「咳反射」の機能も低下してきます。
すると、口の中にあった食べ物や飲み物が誤って肺に流れ込んだり、胃の内容物が逆流して肺に流れ込んだりする「誤嚥」を引き起こしやすくなります。
具体的には、嚥下機能の低下により知らない間に食べ物や飲み物、唾液などと一緒に細菌が肺に流れ込み、肺の中で細菌が増殖して肺炎を引き起こします。また、嘔吐したときに胃液が食道を逆流して、肺に入り込んで起こる場合もあります。
誤嚥性肺炎の症状は主に以下のものが挙げられます。
- 誤嚥を確認し、嚥下障害(うまくものが飲み込めない)がある
- 発熱、咳、たん
- 倦怠感、なんとなく元気がない
- 食事のときにむせ込む
- のどが常にゴロゴロ鳴っている
- 唾液が飲み込めない
- 食事に時間がかかる
- たんが汚い
「なんとなく元気がない」など症状として気が付きにくい場合も多く、周りの目による観察も必要だと言うことがわかります。
誤嚥性肺炎の治療法と予防法
誤嚥性肺炎の治療法
誤嚥性肺炎の原因が「肺に入って増殖した細菌」ですから、その治療法には細菌を抑えるために抗生物質を用いる方法が取られます。
また、肺炎により酸素低下や呼吸不全が起こっている場合には酸素吸入が必要になり、さらに重症化した場合には人工呼吸器も必要となるケースもあります。
治療の効果が出れば症状は改善していきますが、そもそも嚥下機能や咳反射の低下などが原因が多いことから、症状が改善しても再発することも多く、するとそれまで効いていた抗生物質に細菌が耐性を持ってしまい、次第に薬の効果が効きにくくなってしまうこともあります。
そのため、誤嚥性肺炎は治療の前に「ならないための予防」が重要になります。
誤嚥性肺炎の予防法
誤嚥性肺炎を予防するための方法には以下のようなものがあります。
- 調理法を工夫する(食べ物はひと口大に切ったり、柔らかくしたり、とろみをつけるなどして飲み込みやすくする)
- 食後は2時間ほど横になるのを控え、座って過ごして胃液の逆流を防ぐ
- 食事の時には『前かがみ』の姿勢を保つようにする
- 食後の歯磨きの徹底
- 舌や首を動かす体操、歯茎のマッサージ、発声練習などのリハビリを定期的に行う
- 寝るときは頭を30度ほど上げて、胃液の逆流を防ぐ
寝るときの姿勢は、一般社団法人日本呼吸器学会でも提唱しているように、30度を目安にベッドなどに工夫をしてあげましょう。
画像引用:一般社団法人日本呼吸器学会『誤嚥性肺炎』より
また、特に避難所生活が続いている場合などでは食べられるものも限られてきます。
冷めて固くなってしまった食べ物も多いかもしれません。そう言う場合には少しでも小さく分けて、飲み込みやすい大きさにして食べるようにしましょう。また、できるだけ水分を摂りながら飲み込みやすい環境を整えてあげることも必要です。
そして、最近になって重要視されているのが歯磨きなどの「オーラルケア」です。
歯を磨くことは日常生活では当たり前でも、避難生活の中では使える水も限られ、そもそも歯ブラシや歯磨き粉がないこともあります。
そう言った場合、口の中の衛生状態が悪化し、細菌が増殖して誤嚥性肺炎に繋がる可能性が非常に高くなります。
参考:サンスター『覚えてください、防災にオーラルケア』
救援物資には是非「オーラルケアグッズ」を!
自然災害が起こると全国から食料や飲料水、衣服などの救援物資が届きます。
これから被災地などに救援物資を送りたいけど、何を送ったらいいかわからないと言う人は、まずはその自治体に問い合わせをし、足りないとお願いされたものを送るようにしましょう。
そして、是非ともその中に「オーラルケアグッズ」を入れてください。
オーラルケアグッズと言っても難しいものはありません。歯ブラシや歯磨き粉で十分です。
誤嚥性肺炎は高齢者がなりやすい病気ですが、体力が落ちて来れば若い人にも危険性はあります。そして、飲料水が不足している場合もありますので、歯磨き自体をためらってしまう人もいるかもしれませんから、その場合は水のいらない歯磨きセットなどを送るようにしましょう。
水のいらない歯磨きセットには液体歯磨きや、シート状で歯や舌をキレイにする歯磨きシートなどがありますので、普通の歯ブラシセットと一緒に送ってあげてください。
誤嚥性肺炎を防ぐためのまとめ
誤嚥性肺炎は一度発症すると再発を繰り返す可能性が高く、薬の効き目もなくなってくる怖い病気です。
ですから、まずは「ならない」ように予防することが一番です。
特に高齢者になればなるほど嚥下機能や咳反射が衰えてくることから、注意が必要です。
- 食べ物は食べやすい大きさ、柔らかさのものにし、食べるときは前かがみの姿勢をとる
- 食後すぐに横にならず、就寝時は30度上半身を高くする
- 歯磨きなどのオーラルケアを徹底する
これだけで全然違います。
そして、被災地に救援物資を送る際には是非とも「水のいらない歯磨きセット」などのオーラルケアグッズを送ってあげてください。